【まとめ】新機序の糖尿病治療薬イメグリミン

2020年7月、

2型糖尿病を適応として

イメグリミン塩酸塩

(以下、イメグリミン)の

製造販売が承認申請された。

 

ミトコンドリア機能の改善という

独自の作用を持ちます。


 
現在、

インスリンを含めると

9種類の糖尿病治療薬があります。

 

全身のインスリン抵抗性

膵β細胞のインスリン分泌能の両方に作用して

血糖コントロールを改善するという薬剤は、

まだない。

 

今回承認申請された

イメグリミンは、

1剤でインスリン抵抗性を改善しつつ、

同時に膵β細胞のインスリン分泌を刺激するという

新しい機序を持つ。

 

まだ詳細は不明な点もあるが、

イメグリミンの主たる作用点

ミトコンドリアの呼吸鎖だ。

 


〜メトホルミンに類似した作用機序〜


イメグリミン

ビグアナイド薬のメトホルミンと

類似した構造を持つため

作用機序もメトホルミンと同様、

ミトコンドリア呼吸鎖のcomplex Iを阻害するが、

イメグリミンはその程度が比較的弱く

さらに下流complex IIIを亢進させる。

 

そのため、

途中にあるcomplex IIの作用が滞らず、

活性酸素の発生を抑制できる。

 

これが、酸化ストレスによる

インスリン抵抗性亢進の改善

寄与していると考えられている。

 

また、

細胞内のエネルギー代謝にかかわる補酵素である

NAD+を増加させる作用もある。

これにより、

細胞内のCaイオン濃度が上昇し、

膵β細胞ではグルコース依存的な

インスリン分泌能を促進させるという。

 

想定されている主要臓器での薬理作用をまとめたのが以下の表です。

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日本人2型糖尿病患者を対象とした

イメグリミンの国内第3相試験として、

3つのTIMES試験が実施された。

 

①イメグリミン単剤療法の有効性および安全性、忍容性を検討したTIMES1試験では、

 

(方法)

日本人2型糖尿病患者213人を、

イメグリミン投与群(1000mg、1日2回)または

プラセボ投与群に割り付け、

24週間後のHbA1cの変化量などを比較した。

 

(結果)

その結果、イメグリミン群の方がプラセボ群よりもHbA1cの変化量は大幅だった

HbA1c変化量の群間差:-0.87%ポイント、P<0.0001)。

 

 

TIMES2試験では、

日本人2型糖尿病患者714人を対象に、

主に他の血糖降下薬との併用療法における

安全性および有効性を検討した。

 

DPP-4阻害薬、

SGLT2阻害薬、

SU薬などに

イメグリミン(1000mg、1日2回)を併用投与し、

52週間後のHbA1c変化量を観察した(図2)。

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ベースラインからのHbA1cの変化量が

最も大きかったのは 

DPP-4阻害薬との併用群で(-0.92%ポイント)、

その他の経口血糖降下薬との併用でも、

イメグリミン単独療法より

HbA1cの変化量は大幅だった。

 

ただし、

GLP-1受容体作動薬との併用では、

HbA1c変化量は

イメグリミン単独療法より小幅だった。

この理由はまだ明らかではないという。

 

 

また、

イメグリミンは、インスリンとの併用も

検討されている。

 

インスリン単独投与で効果不十分な

日本人2型糖尿病患者215人を対象とした

TIMES3試験では、

 

イメグリミン(1000mg、1日2回)と

インスリンの併用療法群で、

インスリン単独療法群よりも

有意なHbA1cの改善が認められた。

 

 

作用機序が類似しているメトホルミンでは、

頻度は低いものの

脱水時の乳酸アシドーシスが指摘されている。

この乳酸アシドーシスは、

乳酸からグルコースの変換が阻害されることに

起因するが、

イメグリミンにはこのような

阻害作用は報告されていない。

 

 

作用機序やこれまでの臨床試験データから

考えると、警戒しなくてはならない副作用は

イメグリミンには少ない。

 

今後、

腎機能低下患者に対する安全性が確認されれば、

高齢者などにも使いやすい薬剤になるだろう。