がん悪液質は

「通常の栄養サポートでは完全に回復することのない進行性の機能障害をもたらす、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」です。

 

●抗がん治療の効果減弱、

●副作用や治療中断の増加、

●生命予後にも影響を及ぼします。

 

積極的な治療が必要とされます。

 

がん悪質液は、

多因子性のため、病態あるいは機序の解明が困難で、これまでに標準治療は確立されていません。

 

よく認知されている診断基準は、

2011年に欧州緩和医療共同研究グループである

European Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)のコンセンサスレポートで提唱されたもので、

(1)過去6カ月の意図しない体重減少が5%超、

(2) BMIが20kg/m2未満の場合は体重減少が2%超

(3)サルコペニアがある場合は体重減少が2%超

――というものです。

 

自覚症状として、

しばしば経口摂取不良、全身性炎症を伴う。

 

 

悪液質には

●前悪液質(Pre cachexia)、

●悪液質(cachexia)、

●不応性悪液質(Refractory Cachexia)

という3つのステージがあり、

少なくとも悪液質、

できれば前悪液質の段階で介入すべきことも

提唱されました。

 

※前悪液質は

●体重減少が5%以下で食欲不振、

代謝異常を伴うもの、

●不応性悪液質はがん悪液質の様々な状態、

●異化状態かつ治療抵抗性、

●PS低下、

●生命予後3カ月未満

とされています。

 

悪液質という病態の中心には炎症があり、

その影響によって食欲不振が起こり、

   ⬇︎

骨格筋減少が起こり、

   ⬇︎

代謝の異常が起こる

と考えられています。

 

 

がん悪液質は

がん患者の50〜80%に発生し,

がん死亡原因の20%を占めると推定されています。

 

国立がん研究センター東病院肝胆膵内科では

同施設の初回化学療法開始後の

膵癌患者150例における悪液質の発生頻度を

後方視的に調査しました。

 

結果は、

化学療法開始から

12週の間に32%、

48週で64%、

最終的には71.3 %

の患者が悪液質を発症、

それらの患者は予後不良でした。

 

実際にデータとして

化学療開始後に悪液質を発症した患者では

グレード2以上の食欲不振の頻度が高いことや、

ほとんどの患者が食欲不振を自覚している

という状況が明らかになりました。

 

最近行われた2000名を超える大規模なインターネット調査、J-EPOCC研究(癌と化学療法 2020; 47(7): 1075-1080)では、「今、がん悪液質の診断や治療において、課題として何が重要か」との問いに対する医師の回答としてもっとも多かったのは「治療オプションが乏しい」だった(52.8%)。ほかに、「診断基準がなくがん悪液質かどうかと、ステージが分からない」が40.2%、「治療ガイドラインが存在しない」が27.6%などだった。京都府医大の高山氏は「特に治療オプションが乏しいことは、臨床家にとって大きな問題であった」と指摘した。

 こうした中、世界で初めて、がん悪液質を適応とする新薬が登場した。経口グレリン様作用薬アナモレリンである。

 グレリンは主に胃から分泌される、生体のエネルギー代謝調節に重要なホルモンである(Physiol. Rev., 2005; 85, 495-522)。主要な生理作用の1つは、視床下部の摂食行動を制御する領域に作用して食欲を亢進させること(J Clin Invest. 2002; 109(11): 1429-1436)、もう1つは下垂体からの成長ホルモン(GH)分泌を促進すること。GHはIGF-1分泌を介して筋肉におけるタンパク同化作用を発揮し、筋肉量及び体重を増加させる(J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2014; 5(4): 329-337)。

 ただ、グレリンはペプチドホルモンで血中半減期が9~11分と短く、治療に用いるには難しい側面があった。アナモレリンは、グレリンと同等のグレリン受容体(成長ホルモン放出促進因子受容体タイプ1a:GHS-R1a)に対するアゴニスト活性(EC50:グレリン0.67nM、アナモレリン0.74nM)および親和性(Ki:グレリン0.58nM、アナモレリン0.70nM)を有し、血中半減期が長い(50〜150mg 9.2〜9.6時間)という特徴を持っている(Scientifica (Cairo). 2013; 518909、小野薬品工業社内資料、J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2014; 5(4): 329-337)。

 光永氏は「(悪液質の)食欲(減退)に関しては神経内分泌調節不全が背景にあるとされ、アナモレリンは、ここに作用する薬剤である。機序を理解して治療法を開発することが、いよいよ現実のものになってきている」と話した。

 高山氏は「(世界初の承認でもあり)慎重に使用する必要があるが、今後、がん悪液質患者に大きな恩恵をもたらすことが期待される」との見通しを示した。