はじめに
・悪性リンパ腫の治療は
多剤併用化学療法が基本でした。
・1997年に抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブができて、
分子標的療法が治療に加わりました。
・そのあと、
多くの抗体治療薬、低分子治療薬が開発されました。
※B細胞リンパ腫←成熟B細胞腫瘍
※T細胞リンパ腫←成熟T-NK細胞腫瘍
※ホジキンリンパ腫←古典的ホジキンリンパ腫
リンパ腫の病型と標準療法
【病型】
〇B細胞リンパ腫(T細胞リンパ腫より頻度が高い)
〇T細胞リンパ腫
〇ホジキンリンパ腫(全体の5%)
【B細胞リンパ腫】
頻度が高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)はリンパ腫全体の約30~40%を占めます。
次いで頻度が高いのは濾胞性リンパ腫です。
〇びまん性大細胞型B細胞は
月単位で進行する速いリンパ腫に分類されます。
標準療法は・・・R-CHOP療法
(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、
ビンクリスチン、プレドニゾロン)
〇濾胞性リンパ腫は
年単位で進行する比較的緩徐な経過を示します。
・全体の腫瘍の量が少ない場合・・・無治療、リツキシマブ単剤治療など
・症状があるなど腫瘍量が多い・・・リツキシマブ併用療法
例)CHOP療法、
CVP療法(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン)
ベンダムスチン
・R-CHOP療法、P-CVP療法で寛解導入された場合、
・・・リツキシマブ維持療法(2年間)も検討する。
・オビヌツズマブと化学療法の併用(標準療法の一つ)
〇マントル細胞リンパ腫は
B細胞リンパ腫に分類される稀少病型です。
・若年・・・標準療法はリツキシマブ、
・大量キロサイドを含めた寛解導入後に地固めの大量化学療法
・・・リツキシマブの維持療法
・高齢者には・・・VR-CAP療法
(ボルテゾミブ、リツキシマブ、シクロホスファミド、
ドキソルビシン、プレドニゾロン)
R-CHOP療法+リツキシマブ維持療法
ベンダムスチン+リツキシマブ療法
【T細胞リンパ腫】
〇末梢性T細胞リンパ腫非特定(PTCL-NOS)が大半を占める。
〇血管免疫芽球性リンパ腫
〇未分化体細胞型リンパ腫(ALK陽性と陰性に分類)
B細胞リンパ腫に比べて予後不良です。
・標準的治療・・・CHOP療法
【ホジキンリンパ腫】
〇ホジキン細胞・・・ホジキンリンパ腫の腫瘍細胞
〇Reed-Sternberg細胞・・・B細胞起源
他のリンパ腫と比べて若年者に多い。
・進行期の標準療法・・・ABVD療法 6コース
(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバシン)
※ABVD療法 2コース後のPET検査でも陽性なら治療法の強化が必要です。
・限局期・・・ABVD療法の試行回数を減らし(2~4コース)、
領域照射を併用します。
〇抗CD20抗体
・リツキシマブ
➡B細胞リンパ腫の予後を著名に改善しました。
➡DLBC、濾胞性リンパ腫でも既存の多剤併用化学療法+リツキシマブ
・・・全生存割合が有意に向上しました。
・オビヌツズマブ
➡ADCC活性を高めた第3世代の抗CD抗体です。
➡化学療法との併用療法では、リツキシマブとの併用療法より優位に有効でした。
(DLBC、濾胞性リンパ腫)
・オビヌツズマブ+ベンダムスチン
➡再発奨励での有効性も確認されています。
〇抗CD30抗体(ADC)
・ブレンツキシマブ ベドチン
➡抗CD30モノクローナル抗体+抗チューブリン阻害薬が結合したもの
※ブレンツキシマブはCD30に結合すると、
細胞内に取り込まれてライソゾーム運ばれ
抗チューブリン阻害薬が放出されます。
これが、細胞の核内のチューブリンと結合し、
G2/M細胞周期を阻害することで細胞のアポトーシスを起こします。
※CD30はホジキンリンパ腫や未分化大細胞型リンパ腫で陽性です。
➡ブレンツキシマブ+AVD療法
(AVD:ドキソルビシン、ビンブラスチン、ダカルバシン)
➡ブレンツキシマブ+CHP療法
今後、未分化大細胞型リンパ腫の標準療法になるかもしれません。
〇抗PD-1抗体
➡完全ヒト化抗PD‐1抗体です。
➡再発・難治性の悪性黒色腫、非小細胞がん、腎細胞がんなど
多くのがん腫に有効です。
➡ホジキンリンパ腫では極めて高い効果を示します。
・ペムブロリズマブ
➡ホジキンリンパ腫に高い有効性を示しました。
〇2重特異的抗体
T細胞上のCD3抗原と、B細胞上のCD19などの抗原の両方を認識し、
T細胞と腫瘍性のB細胞をengageさせることによる
モノクローナル抗体療法の開発が進んでいます。
急性リンパ性白血病でCD19とCD3の2重特異的抗体のブリナツモマブが出てきました。
【低分子治療薬の開発】
1)B細胞受容体シグナル阻害薬
・B細胞リンパ腫の治療標的として有効です。
B細胞受容体シグナルでは重要な酵素です。
・イブルチニブはBTK阻害薬です。
マントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病に高い効果を示します。
再発・再燃のマントル細胞リンパ腫に対する全奏効割合は87.5%でした。
マントル細胞リンパ腫に対しては寛解導入療法でイブルチニブを併用する試験が進んでいます。
ほかにも、濾胞性リンパ腫でのイブルチニブの試験も進んでいます。
・PI3キナーゼ阻害薬は
濾胞性リンパ腫に高い奏効を示します。
2)その他の低分子治療薬
・ヒストン脱アセチル化阻害剤のロミデプシン
・プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)阻害剤のフォロデシンは
再発・再燃T細胞リンパ腫に承認されています。
・ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫に対して
ALK阻害薬のクリゾチニブ、アレクチニブの開発も行われています。
3)細胞療法の開発
・患者のT細胞リンパ腫を採取して、
がん特異的抗原を認識する抗体由来の部分とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達にかかわるT細胞受容体を中心とした細胞内部分を結合させた分子(CAR)を、採取した患者のT細胞に導入します(CAR T細胞)。
このCAR T細胞を患者に輸注することで、高い効果が期待されます。
➡一部の急性リンパ性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫に対して
CAR T療法が承認されました。
(2017年に米国食品医薬品局(FDA)が承認しました。)
・CD19陽性の再発難治性B細胞性急性リンパ芽急性白血病とDLBCLに対して、
CD19 CAR Tであるチサゲンレクルユーセル(キムリア®)も承認され、
薬価収載されました。
・CAR T療法は、
単回の投与で長期の有効性が得られる可能性がありますが、
サイトカイン放出症候群などの重篤な副作用と、高価であることが問題点です。
4)免疫調整薬のリンパ腫への展開
・レナリドミド
多発性骨髄腫の治療薬ですが、B細胞リンパ腫での開発も進んでいます。
・初発症状を対象とした
リツキシマブ+化学療法と、リツキシマブ+レナリドミド
➡ほぼ同等の有効性を示しました。
・再発症例に対して
リツキシマブ単剤と、リツキシマブ+レナリドミド
➡無憎悪生存期間でリツキシマブ+レナリドミドが有意に優れています。
・マントル細胞リンパ腫に対して
リツキシマブ+レナリドミドの有効性も示されました。